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02 観覧車  喜多川家の陰謀
「……どうしましょう、喜多川主任?」
「喜多川君。君が、言い出したことだ、ちゃんと責任とりたまえ」
 出張中の上司と部下二人が、なぜかベイエリアの遊園地の前にたたずんでいた。
「部長も森本も、往生際が悪いですよ。俺は一蓮托生です。……さすがに平日の昼間は空いてますね」
 大きな商談がスムーズにまとまり、帰りの列車の時間まで、三時間ほど時間が空いたのである。主任の喜多川は、突然上司と部下に、「せっかくなので、街を一望できるところでも行ってみませんか」などと誘ったのだった。
 展望台を想像していた上司の湯河原部長は、明らかに面食らっているようだ。
「君たちだけで行ってきたまえ。私はここで……」
「湯河原部長。経理課の『ミサキ』ちゃんにいいつけますよ? 『湯河原部長は、観覧車にも乗れない小心者だ』って」
「な、な、何を言っとるんだ。美咲君とは別に何でもない、ないっ」
 しどろもどろになる部長を見て、最若手の森本が忍び笑いをした。
「あー、語るに落ちるってやつですねぇ、主任?」
「だから、往生際が悪いって言ってるんです、さっきから。本社の人間は全員知ってますよ。というかですね、そもそも今回のこれは、『ミサキ』ちゃんに頼まれたんで」
「なっ、それはいったいどういうことなんだ? 美咲君って、ええ?」
 部長の質問も無視して、喜多川主任は手早くチケットを購入する。
「大人三枚、領収書は「コスモス・コーポレーション」でお願いします」
「認められるか、そんな領収書!」
 部長の怒りもなんのその。喜多川はいつも通り、飄々としている。
「接待交際費で落とすからいいんです。と、経理課の『ミサキ』ちゃんが言ってました」
 追い討ちをかけるように、森本がふざけたように言う。
「『部長が乗った観覧車が、一番上に到達したときの写真を撮ってきて』って、彼女も随分マニアックですよねぇ」
「では行きましょうか、部長」
 部下二人に両脇を固められ、湯河原部長は途端、あせり出した。
「まあ、待て。喜多川君も森本君も」
 平静を装って、部下たちを説き伏せにかかる。
「こんな平日の真っ昼間に、だ? スーツ姿のいかにもサラリーマンが三人で、観覧車に乗る姿を想像してみたまえ。白い目でみられるぞ?」
「商談なんです――とか、係員に言えばいいじゃないんですかぁ?」
「そんなわざとらしいことしなくても大丈夫だ、森本」
 喜多川主任は勝ち誇ったように言う。
「一人ずつ乗ればいいんです。まずは森本、次に湯河原部長、そして最後に俺が乗ります。部長が一番上まで行ったら、俺と森本がそれぞれ隣の車体から、部長のことねらいますんで、できるだけ笑顔でお願いします」
「おいおい、それじゃ三人一緒に乗る以上に恥ずかしいだろう!」
「もう、いいから乗れ」
「うわっ、なにする」
「このやろう」
「ぎゃっ」
「うわあああ」
「俺は高いところが苦手なんだあああ」
 部長が無理やり押し込められた観覧車は、抵抗むなしく、ゆっくりと上昇していく。
 喜多川は飛び切りの笑顔を見せ、手を振りながら、つぶやくように言った。
「知ってますよ、だから今回の出張もわざわざ、いまどき列車なんか選んだんでしょう」

 その様子を眺めていた森本は。
「喜多川主任って、根に持つタイプですよねぇ。そんなにミサキちゃんのこと、気に入ってたんですか?」
「チケットはあと二枚ある。部長に全部使ってもらおうじゃないか。ははははは……はは。」
 喜多川の力ない笑いが、あたりに響いた。




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