「何であたしに構うんだよ」
今日も、インテリやくざにして『桜組』の総長を務める大男が、昼間の学食だけでは飽き足らず、一緒に帰るといって菖蒲のところへやってきた。
例のごとく、一緒にいるのは困惑の表情の阪東達也。どうせコワモテの舎弟に、脅されたに決まっている。
元はといえば、この達也。
イトコのこいつが、なんだか知らないけど桜井のやつに丸め込まれ、私の元へと連れてきたのがすべての始まりなのだ……
そして、自分でもどうしていいのか分からないような展開に、悩む毎日。
そう思うと、菖蒲は途端に達也の息の根を止めたい衝動に駆られる。
桜井は飄々としながら、答えた。
「毛色が変わってるなと思って。愉快だから」
「どういう意味だよ!」
「さすがはあの喜多川さんの血を分けた妹だって、誉めてるんじゃないか」
「全っ然、嬉しくないね。お兄ちゃんが毛色が変わってる、っていうのは否定しないけど」
「あー、あっちゃん、椿さんに言いつけちゃうよー?」
「やめろよ! お前がいつもお兄ちゃんにチクるから、家族の仲が悪くなるんだって、いい加減気づけよ!」
「や、やめてよっ、ぐ……ぐ、ぐるじい……」
首を絞めてやりたい衝動は、現実のものとなった。
「もしも、だ。あくまで例え話だが。簡単な心理テストみたいなもんだ、アヤメ答えろ。ついでだ、阪東も」
桜井は歩きながら、突然奇妙なことを言い出した。
二人はなんだか分からず、顔を見合わせて瞬きしてみせる。
桜井は続けた。
「今日はテスト明けです。午後から休みなので、同級生の彼(または彼女)と映画に行く約束をしてました。しかし突然、彼(または彼女)が、これから隣街のグループと抗争だから、映画には行けなくなったと言います。あなたはどうしますか? ……はい、阪東くんの答えは?」
「隣街のグループと抗争しちゃうような彼女なんか、イヤです……」
「凛々しくていいじゃねえか。まあ、阪東には似合わねえけどな。……では、アヤメの答えは?」
桜井と思わず目が合う。
「え? えっと……、そんなの放って置いて、一人で観にいく……かな」
菖蒲がそう言うと、食いついたのは達也のほうだった。
「えーっ? 嘘!? あっちゃんそんなの駄目駄目! 一緒に観にいこうって約束してたのに、一人で行っちゃうなんて! だからあっちゃんは彼氏ができないんだよ!」
「うるさいよ! お前にダメとか言われたくねえよ!」
相変わらず、一言も二言も余計だ。
もう一度絞めてやろうと、達也の首に手をかけようとした、その時。
桜井は、わははははと大声を出して、豪快に笑ってみせた。
そして。
「パーフェクト。完璧だ」
「ええ? 桜井君、いったいどこがなの?」
達也は素直に聞いてみる。
「必要以上に『俺』に依存しない、というところがだ。信頼と依存は別物、だからな……」
「カッコいい……桜井君、なんてカッコいいんだ」
「ふっ、……入るか? 桜組に」
ぶんぶんと、達也は必死に、首を横に振った。
「き、気持ちだけ受け取っておくよ、桜井君」
「ちょっと待て、二人とも。……もしも、で、あくまで例え話、の筈だろ! 途中で一人称がすりかわってるぞ!?」
「ちっ、バレたか……」
桜井は突然、達也の腕をつかみ引き寄せた。自分の手で、達也の両耳をきっちりふさいでやる。
そしてそのまま、菖蒲のほうへと向き直った。
「なあアヤメ、俺の彼女になれ」
「……」
「イヤなのか?」
桜井の目は真剣だ。
菖蒲は、達也の耳をふさいでいる桜井の手の上に、自分の手を重ねてやる。
その手と手が触れた瞬間。
二人の間に電流が流れた。
防音は、これほどないまでに完璧。
「お前の彼女なんて、大変そうじゃないか……退屈はしないで済みそうだけど」
「それは、了承ということか?」
「え? まあ…………………………うん」
菖蒲がやっとの思いで答えると。
桜井は柄にもなく、はにかむような笑顔を見せた。
「じゃあこの手、離すぞ。……せーの」
達也はきょとんとしたまま。菖蒲と桜井の顔を、交互に見た。
そして、ただひたすら瞬きを繰り返していた……。
(了)
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