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10 長い髪  喜多川家の陰謀
 朝、生徒昇降口で。
 菖蒲は声も出せないほど、驚いていた。
 自分の下駄箱のフタを開けたら、何とそこには……。

 ラブレター? いやいや。
 カミソリつきの脅迫状? ちゃうちゃう。
 というか、上履きが盗まれていた? 違ぁぁぁぁーっう!
 その程度じゃ、驚かん。

 呆然と立ち尽くす菖蒲の背後に立ったのは、暑苦しい男子生徒が二人。
「どうしたんスか、アヤメさん? もしかして何か!?」
「桜井様に代わって俺たちが……」
 青島と白崎。桜井の腹心の舎弟だ。
 はじめのうちは『貴様』呼ばわりだったのが、桜井と付き合うようになると、その態度は一変したのだ。
 そりゃあ、気味が悪いほど。
 その青島と白崎が菖蒲の下駄箱を覗き込み、すぐさま、マッハで飛び退いた。
「「なんてことだ」」

 上履きの上に置かれていたのは、赤い布できれいに束ねられた、くせのない長い髪がひと房……。
 怖いの怖くないのって……。怖いわ!

「なんなんだよ……お前たち、なんか知ってるのか?」

「どうするよ……この赤いリボンよォ?」
「これ、桜井様の……前の……」
 桜井の、前の? ……前のって?

(彼女? そうなのか? 髪を切った? あたしに送り付けてきた? ひええええ……)
 ある意味、カミソリより怖い。

 確かに桜井ほどの男なら、彼女がいたって不思議じゃない。
 しかし、今の彼女である菖蒲にこんなシロモノを送りつけてくるとなると、尋常な思考の持ち主とは思えない。
 さっそく、厄介事の匂いがしてきた……。
 そんな想像を巡らしていたが、話はなにやら意外な展開へ。


「なあ、お前自分の持ってるよな?」
「当然だ、肌身離さず、持ってるぜ」
 そう言って青島は、制服の内ポケットから茶道で使う袱紗(ふくさ)を取り出し、中からなんと!
 ……青い布で束ねられた、巻かれたひと房の長い髪。

「俺も持ってる……ほら」
 続いて白崎も迷彩柄の巾着袋から、白い布で束ねられたひと房の髪を取り出して見せたのだ。

「いったいなんなんだよ、この気味悪い髪の毛は……」
「中学を卒業するとき、舎弟となった証に、桜井様からいただいたものだ」
「名前にちなんで、それぞれの色のリボンがついている」
「いつでも俺たちは桜井様とともにある、ということだ」

 と、いうことは。
 桜井は自分の髪を、腹心の舎弟に分け与えたということだろうか。
 相変わらず、奇妙なやつだ。自分の彼氏だが、時折ついていけなくなる。
「じゃあ、赤って誰だよ?」
 菖蒲は、舎弟たちに尋ねた。
 青島と白崎は、お互い顔を見合わせている。
「そこ、なんだよなあ……アイツが相手じゃなあ」
「うんうん」
「桜井に惚れ込んでたからなあ……別な意味で」
「そうそう」

 青島が言う後につづいて、白崎がいちいち合いの手を入れている。
「で、誰なんだよ! 赤って!?」
「3Eの紅林善造(くればやし・ぜんぞう)だよ」
「年上の舎弟!? それじゃ舎兄だろう……。それより何だってその紅林が、あたしにこれを?」
 菖蒲は上履きの上から、赤いリボンのついた髪のひと房をつまみ出した。
 恐ろしくツヤのある、くせのない、ハリのある長い髪。
 おそらく、三十センチはあるだろう。
 そっと触ると、さらさらしていた。
(確かにこれ…………桜井のだ)
 そう考えたら、怖さも薄れてくる。

 桜井の『前の』は、彼女ではなくて、髪の毛のこと?
 それを知って、安心している自分が、何だかおかしかった。
 しかし、安心するのはまだ早い。
 紅林善造、……桜井に惚れ込んでたって?
 それで、私に嫌がらせ?

 それよりもなによりも。
 彼氏・桜井の中学時代の髪型のほうが気になる菖蒲であった……。





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