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18 温泉(陰謀編)  喜多川家の陰謀
「何だか僕、ドキドキしてきちゃったよぅ」
「子供だな、達也は」
 とある高級温泉旅館の一室で、今まさに密談が行われていた。
 目の前には豪華なお膳料理が並んでいる。
 刺身の舟盛りやらマツタケの土瓶蒸しやら、普段滅多に口にできない高級食材がふんだんに使われた、見た目も味も一級品ばかり。
「そういう椿さんだって、テンション上がってるくせに」
「まあな。分かるか?」
 喜多川椿と阪東達也。
 二人の関係は、イトコ同士である。
 そもそも何でこの二人が温泉旅館に泊まることになったのかというと……。

「あっちゃんたちの部屋って、ひょっとして露天風呂付き?」
「ああ、特別に奮発してやったぞ。このシチュエイションで二人の仲が深まらないわけがない!」
 椿は不敵な笑みを浮かべてみせる。妹のために、彼氏とのときめきの(?)一夜を、わざわざ舞台設定してやったのだ。
 いや、妹のためではない。自分のためなのだ。
 ――好奇心を満たしたいがために。
 椿の陰謀に加担した達也も、知らず知らずに気分が盛り上がっているようだ。
「深まらない、わけがない! 二重否定! つまり強い肯定ってことでいいんでしょ、椿さん!?」
「わははは、その通りだ達也!」
 椿と達也、テンションが上がり過ぎだ。
 ある意味、最強かもしれない。


「二人とも別々に大浴場に行ったみたいだよ」
 双眼鏡片手に、達也は言う。
 達也と椿がいる部屋の窓からは、大浴場へと続く渡り廊下を望むことができる。
「何やってるんだよ……先が思いやられるな。桜井君もだな、もうちょっと強引に『一緒に露天に入ろう』とか、誘えよなー」
 すでに発言が不倫している中年オヤジだ。
 椿は畳に寝転がりながら、テレビのチャンネルをころころ変えている。
 窓に張り付いていた達也は一旦張り込みを止め、椿の元へと腰を下ろした。
「桜井君、あれでなかなかあっちゃんにゾッコンだからさぁ、無理矢理ってことはしないと思うよ」
「いまどき『ゾッコン』はないだろ……達也、お前いくつだよ」
 真の陰謀は、これから始まるのだ――。
 つかの間の、小休止。


 すでに布団が二組敷かれ、座卓は部屋の隅に押しやられていた。
 その座卓の上に。
 何やらものものしい機械が置かれている。
 その機械を取り囲むようにして、椿と達也は座っていた。
 ――真剣そのものだ。

【アヤメ】
【……なんだよ】
【こっちへ来いよ】
【なっ、何でだよ】
【決まってるじゃないか】

「とうとう、来たな。はははは」
「でもさぁ、ホントにいいの? 椿さん。盗聴なんて、犯罪でしょ?」
 いいわけがない。
 その盗聴受信機からは、男女二人の会話が聞こえてくる。たとえ相手が血を分けた妹とはいえ、盗聴は立派な犯罪だ。
 なにより、悪趣味だ――。
「お前はまだ未成年だ。少年Aで済むから、安心しろ」
「ええ? 僕一人に罪なすりつけるわけ? ひどいよぅ」
 情けない達也の叫びも、ブラック椿にはどこ吹く風である。

【声、出すなよ……】
【ヤダ、なに考えてるの!?】
【俺に任せろ……大丈夫だから】
【…………】
【アヤメ!】
【止めて! 痛い! 放してってば!】

「その調子だ、桜井君! そのまま突き進め!」
 受信機に向かって、椿は叫んでいる。左側に座る達也と肩を組み、右手のコブシを上げ狂喜乱舞している。
「椿さん、興奮しないで! 首っ! 僕の首絞めてる!」
 興奮のあまり、達也の肩に回してる腕に力が込められている……。
 達也は半死半生状態だ。

【イヤだよ、こんな……酷すぎる】
【聞かれてたほうが、ボルテージも上がるってものさ……】

「さすがは桜井君……気付かれたか。しかし、そこで引かないところがまたいいな。気に入ったぞ!」
「うわ、うわ、うわわわっ! こっちのボルテージも上がっちゃうよね!?」
 二人とも菖蒲の心配をしていないところが、人間的にアウトだ。

【こんなときに、ふざけるな! 桜井のバカヤロウ!】
【……なんだよ。俺は紅林と同じ扱いなのか】
【…………】
【もう、いい。お前がそんなにいやなら、俺に無理に付き合う必要はない】

「あ、何だかアヤシイ雲行き……どうしよ、椿さん!」
「ったく、菖蒲のヤツ……ちょっとは女らしいところ見せたらどうなんだ!?」

【喜多川さん、聞こえてますか? ……済みませんけど、これで終わりです】
【終わりだなんて、勝手なこと言うんじゃねぇぇ!】

 何やら物騒な物音が続いていく。
 菖蒲が、暴れているに違いない。
 ――ああ、せっかくの雰囲気が台無しだ。
 椿は残念そうに、大きな舌打ちをした。
「やっぱりあっちゃんはこうじゃなくっちゃ、ね? 椿さん」
 達也は苦笑しつつも、どこかホッとしているらしい。暴れる菖蒲は、水戸黄門の印籠のようなものだ。
「まあ、お約束の展開だけどな、わははは」


 しかし、そんなのん気なことを言ってる場合ではなかった。





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