* home *
20 ホクロ  喜多川家の陰謀
「俺のほうがふさわしいに決まってんだろ!?」
「なにヌかしてやがる……つけあがりもはなはだしいな」

 なにやら物騒な言い争うような声が、廊下の先の部屋から聞こえてくる。
 生徒会長を務める少年・黒磯は、一人廊下でため息をついていた。

 いったい誰のお陰で、この部室棟でふた部屋も使えると思ってるのだ?
 ひとつは「桜組」という、無認可団体のための居室として。
 そして、もうひとつはこの桜組のリーダー、桜井知宏のため――。

 黒磯が持ち前の頭脳を生かして、校則と生徒会規約を駆使して、半ば強引に『部室の使用許可』をとりつけたのだ。

 それもこれも、桜井のためである。黒磯が、自分よりも優れていると認めた男のためにしたことなのだ。
 決して、ノータリンな舎弟たちのためではない。


 黒磯は部室の前まで来ると、一呼吸おいた。
 中からは、尚もくだらぬ怒声が響いている。
 黒磯は勢いよくドアを開けた。
「いったい何の騒ぎなんです? ホント暑苦しいんですから、君たちは……」
 思ったとおり。いがみ合っていたのは二人の男子だ。
 常日頃から桜井の傍に控える、巨漢の青島、そして咎人面の白崎である。

「けっ、生徒会長様かよ。お前何しに来たんだよ?」
 青島は端からケンカ腰。さすがはバカ、理性も知性も感じられない。
「黒磯、今日は桜井様いねえぞ?」
 白崎はだるそうな顔。やる気なさ全開だ。
「どうやらそのようですね……ちょっと耳に入れておきたいことがあったんですが、まあ、明日の朝にしましょう」
 黒磯は肩をすくめてみせる。そして、再び言い合いを始めそうな青島と白崎に向かって言った。
「で? 君たちはなにを揉めているんです? なんなら、風紀懲罰委員長でも呼んで来ましょうか?」
 シャレにならない冗談を、黒磯は真顔で言った。――いつものことだが。

「まあ、要するにだな? 俺たち桜組幹部の地位は平等ではない、ということだ」
「組のナンバー2は誰なのかっていう話だ」
 青島に続いて、白崎が補足を入れる。――こちらも、いつものこと。


 相変わらず、どうでもいいようなことで言い争っていたようだ。ヒマ人だ。
 黒磯少年はそんな二人に呆れつつも、部屋の隅から椅子を引っ張ってきて、話の輪にハマりだした。
「どんな基準なんですか? 知力ですか? 腕力ですか? それともビジュアルですか?」
 青島は腕を組み、少ない脳みそをフル回転させて考える。
 耳の穴から煙が出てきそうな勢いだ。
「そうだな、桜井様に次ぐナンバー2を名乗るんならよ……」
「全てにおいて能力が高くねえとダメだな」
 またもや白崎が補足を入れた。素晴らしきコンビネーションだ。
 すると黒磯は、青島と白崎の顔を交互に見て、キッパリと言い切った。
「じゃ、当然僕でしょう? 知力とビジュアルじゃ、君たちが及ぶところではないですからね」
 青白コンビは一瞬固まり、そして顔を見合わせた。
 当然ボク、なんて宣言された日には、メンツもなにもあったもんじゃない。
 もちろん、血の気の多い青島が黙っているはずもない。黒磯の顔の真ん中に人差し指を突きつけながら言う。
「知力はともかくよ、お前、そんなんでビジュアル語っちゃうのかよ!?」
 指された黒磯は、その失敬な指を軽く払いのけた。
「お言葉ですけど、僕はちまたじゃ『爽やかな好青年』で通っているんですから」
「腹の中は、こんな真っ黒けのクセしてな……」
 黒磯の本性を見抜いているあたり、青島と黒磯は親友になれる可能性大なのでは?
 ……などと白崎が考えていた、ということはさておいて。

「なあ、俺さ、考えたんだけど」
 白崎がいかにも面倒くさそうに喋りだした。
「ナンバー2に本当に必要なのは、どれだけ桜井様のことを尊敬しているか、ということだと思うんだ。どれだけ桜井様のことを理解しているか……」
 そういう意味でのナンバー2なら、不毛な言い争いをしなくてもよくなるだろう。
「まあ、白崎君もたまにはまともなことを言いますね」
 黒磯は不敵な笑みを浮かべてみせる。策士の顔だ。その優秀な頭脳から生み出されるのは、善か悪か――。
「では、自分だけが理解しているということを、具体例を挙げてみましょうか? レア度が高いネタほど、桜井君の理解度が高いということで。おのずとナンバー2が決まってくるんじゃないですか?」


 青島の挑戦。
「桜井様が中学んときにずっと髪伸ばしてたワケ、知ってるぜ?」
「ああ僕、それなら聞いたことありますよ。『ナツミちゃん』でしょう?」
 黒磯、あっけなく看破。
「青島……その話はタブーなだけで、意外にみんな知ってるぜ?」
 白崎によりとどめを刺され、陥落。

 レア度 ★★☆☆☆


 白崎の挑戦。
「桜井様は生まれてこのかた、たった一度しか病院にかかったことがないんだぜ。小学生んとき、盲腸の手術して、それから病院嫌いになったって話だ」
「病院デビューがいきなりモウチョウかよ。そりゃすげえなァ」
 青島、さっそくいい食いつき。
「白崎君、それは残念。桜井君、週明けに整形外科に診察にいってたようですけど?」
 黒磯、またしても蜂のひと刺し。いや、毒蛇のひと噛みか――。
「「桜井様が、けっ、怪我!?」」
 いつも傍に控える二人の舎弟も、どうやら気付いていなかったらしい。

 レア度 ★★★☆☆  ただし、黒磯の補足ネタで★ひとつプラス。


 黒磯の挑戦。
「桜井君の背中に『サソリ』がいるっていうのは知ってますか?」
「え? いや……それは知らねえな。白崎、知ってるか?」
 青島は首をかしげている。
 背中に『サソリ』。
 意外どころか、――似合い過ぎる。
「一緒に泳いだり風呂入ったりしたことねえしな……。黒磯、お前いつ見たんだ?」
 青白コンビの問いに、明快な答えをしてみせる。
「修学旅行ですよ。君たちは女風呂覗いて、正座させられてたじゃないですか」
 ナルホドと、二人は同時に手のひらをこぶしで打ってみせる。素直に納得してしまうところがなんだか悲しい。
「ますますミステリアスでカッコいいじゃねえかよ……さすがだな、桜井様は」
「真似できねえな……サソリの刺青なんてさ。一ぺん、見てみてえな」

 レア度 ★★★★★


「じゃあ、僕が勝ちということでいいんですね? ナンバー2の座、いただきますよ」
「しかたねえ……今回のところは、だ。リベンジ戦やるからな! 逃げんじゃねえぞ?」
「もっともっと桜井様のすごい秘密を見つけて、あっと言わせてやらねえと」

 どれだけ桜井様のことを尊敬しているか。どれだけ桜井様のことを理解しているか。
 それがいつの間にやら、『どれだけすごい秘密を知ってるか』にすりかわってることに、青島白崎のバカ舎弟たちは気付いていないようだ。
 愚かなり――。
 黒磯は内心、ほくそ笑んでいた。
「受けてたちましょう。何度やっても同じことだと思いますけどね」

「それにしても、サソリのタトゥーかァ」
「桜井様、また伝説が増えていくなァ」
 最初の言い争いはどこへやら。青島白崎は和気藹々と語りだす。

 リーダー桜井がいないのなら長居は無用だ。黒磯は生徒会室へ戻るとうそぶき、桜組の溜まり場を後にした。
 廊下に出て、ドアを閉めたのを確認したところで、黒磯は独り呟いた。
「刺青だなんてひと言も言ってないじゃないですか。ほんと、単細胞人間たちなんですから……」


 桜井の 背に負わるるは 蠍の星 (字余り)

 詠み人、『桜組』初代ナンバー2・黒磯和真。――お粗末。 





* home *
Copyright © 2004- sumire*STYLE All rights reserved.