十二月二十三日――。
夕闇押し迫り、もうじき晩御飯という時間の、喜多川家。
兄の椿は会社の忘年会でも早々と外出。
姉の菖蒲も、携帯で誰からか誘われて、外出。
一人残されたのは弟の桔梗だった。いや、もう一人。
いつものように、イトコの達也が入り浸っていた。いや、もう一匹。
桔梗の飼い犬、ワンちゃん――。これ以上は増えない。
喜多川家に謎の訪問者がやってきた。
甲高いインターホンの音が、台所に響き渡った。
カレー用の人参を切る手を止め、桔梗が手を洗おうとすると、とっさにこの男。
「いいよ、僕が出てくるから、キョウちゃんは続けてて」
自分の家でもないのに、我が家のような振る舞いだ。
阪東達也少年は台所から出ると、寒さ厳しい玄関先へと向かった。
玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは子供のサンタクロースだった。
日本人離れした顔のつくり、そして立ち姿。
白皙の美少年だ。
赤い衣装に身を包み、ブーツを履いて、左肩にはダミーのプレゼント袋――。
右手には綺麗な包装を施した大きな箱を携えている。
しかし一度口を開くとこの態度。
「誰だよ、テメーは?」
可愛いはずのサンタは、達也の顔を見上げ、睨みつけてくる。
達也はその迫力に押され、おどおどしながら言った。
「そ、それはこっちのセリフだよ。……き、キョウちゃんのお友達?」
するとサンタは無理矢理達也を押しのけ、家の中に向かって叫んだ。
「おい、桔梗! いるのか?」
大声を聞きつけて、桔梗が玄関先に出てきた。
怪しげなサンタクロースを見つけ、桔梗はその大きい瞳を、何度も瞬かせている。
「ケーキの押し売りなら、帰ってもらってよ、達っちゃん」
「あ、そうなの。じゃ帰ってよ」
桔梗の言うことなら何でも聞く達也である。そのサンタクロースを、無理矢理外へ押し出そうとした。
「誰も金取るなんていってねえだろ! パパが持っていけっていうからわざわざ届にきてやったんだ」
「そんなカッコして? そりゃご苦労さん。でもなあ、もらう義理もなくなっちゃったみたいだし、ちょっぴり困るかなあ」
僕たちのお兄ちゃんとお姉ちゃんがもしも結婚したら、僕たちは兄弟だね。
ついこの間まで、そんな夢を話していた桔梗と譲次。
末っ子の桔梗に、小生意気な弟ができる。
譲次には、歳の近い優しい兄貴ができる。
そんなささやかな夢も、兄と姉の破局という結末で、消えてしまった。
「別にいいんじゃねえの? どうせ余りもんだよ、こんなの」
そう言って、譲次サンタは玄関の靴箱の上にケーキの箱を無造作に置いた。
達也は二人のやりとりを傍から眺めていた。
「ねえ、キョウちゃん……もしかしてこの子、桜井君の弟なの?」
「譲次君っていうんだ。やっぱりすぐ分かるよね、桜井のお兄ちゃんによく似てるから。でも似てるのは見た目だけだよ」
「うるせーよ」
確かに。あの桜井知宏が小さい頃は、きっとこんな感じだったのではないかと思わせる。
「どうも僕たちは兄弟になり損ねちゃったみたいだから。残念だけど」
桔梗がそう言うと、譲次は柄にもなく落ち込んだような表情をした。
「せっかく、最近のアニキは楽しそうだったのに……俺のことを闇雲に痛めつけることもなかったし」
そりゃ仕方ない。場数が違う。
「菖蒲ちゃんだって楽しそうだったよ。毎日二人分のお弁当作っていってさ」
はああ、と天使と悪魔は揃ってため息をついた。
「そんなのまだ分からないよ? 二人とも!」
落ち込む二人に、達也は努めて明るい声を出した。
「いま桜井君とあっちゃんは窮地に追い込まれてるんだよ。お互いまだ気持ちは残ってるよ。助けてあげようよ、それが本当の兄弟ってもんでしょ?」
本当の、兄弟?
桔梗と譲次は顔を見合わせた。
「ホントに?」
「まだ大丈夫?」
天使と悪魔に、達也は笑顔で応えてやる。
「僕はウソなんかつかないよ」
「本当の兄弟に?」
「なれるの?」
そんなこと、達也にだって分からない。
「そうなればいいね……」
桔梗のワンちゃんがケーキの匂いをかぎつけ、靴箱の側板に前足をかけ、くうんと鼻を鳴らした。
喜多川家の一員のくせに、家族にのしかかる問題などワンちゃんにはどこ吹く風――。
(了)
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