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30 兄弟  喜多川家の陰謀
 十二月二十三日――。
 夕闇押し迫り、もうじき晩御飯という時間の、喜多川家。

 兄の椿は会社の忘年会でも早々と外出。
 姉の菖蒲も、携帯で誰からか誘われて、外出。

 一人残されたのは弟の桔梗だった。いや、もう一人。
 いつものように、イトコの達也が入り浸っていた。いや、もう一匹。
 桔梗の飼い犬、ワンちゃん――。これ以上は増えない。


 喜多川家に謎の訪問者がやってきた。

 甲高いインターホンの音が、台所に響き渡った。
 カレー用の人参を切る手を止め、桔梗が手を洗おうとすると、とっさにこの男。
「いいよ、僕が出てくるから、キョウちゃんは続けてて」
 自分の家でもないのに、我が家のような振る舞いだ。
 阪東達也少年は台所から出ると、寒さ厳しい玄関先へと向かった。


 玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは子供のサンタクロースだった。
 日本人離れした顔のつくり、そして立ち姿。
 白皙の美少年だ。
 赤い衣装に身を包み、ブーツを履いて、左肩にはダミーのプレゼント袋――。
 右手には綺麗な包装を施した大きな箱を携えている。
 しかし一度口を開くとこの態度。
「誰だよ、テメーは?」
 可愛いはずのサンタは、達也の顔を見上げ、睨みつけてくる。
 達也はその迫力に押され、おどおどしながら言った。
「そ、それはこっちのセリフだよ。……き、キョウちゃんのお友達?」
 するとサンタは無理矢理達也を押しのけ、家の中に向かって叫んだ。
「おい、桔梗! いるのか?」
 大声を聞きつけて、桔梗が玄関先に出てきた。
 怪しげなサンタクロースを見つけ、桔梗はその大きい瞳を、何度も瞬かせている。
「ケーキの押し売りなら、帰ってもらってよ、達っちゃん」
「あ、そうなの。じゃ帰ってよ」
 桔梗の言うことなら何でも聞く達也である。そのサンタクロースを、無理矢理外へ押し出そうとした。
「誰も金取るなんていってねえだろ! パパが持っていけっていうからわざわざ届にきてやったんだ」
「そんなカッコして? そりゃご苦労さん。でもなあ、もらう義理もなくなっちゃったみたいだし、ちょっぴり困るかなあ」

 僕たちのお兄ちゃんとお姉ちゃんがもしも結婚したら、僕たちは兄弟だね。

 ついこの間まで、そんな夢を話していた桔梗と譲次。
 末っ子の桔梗に、小生意気な弟ができる。
 譲次には、歳の近い優しい兄貴ができる。

 そんなささやかな夢も、兄と姉の破局という結末で、消えてしまった。

「別にいいんじゃねえの? どうせ余りもんだよ、こんなの」
 そう言って、譲次サンタは玄関の靴箱の上にケーキの箱を無造作に置いた。
 達也は二人のやりとりを傍から眺めていた。
「ねえ、キョウちゃん……もしかしてこの子、桜井君の弟なの?」
「譲次君っていうんだ。やっぱりすぐ分かるよね、桜井のお兄ちゃんによく似てるから。でも似てるのは見た目だけだよ」
「うるせーよ」
 確かに。あの桜井知宏が小さい頃は、きっとこんな感じだったのではないかと思わせる。
「どうも僕たちは兄弟になり損ねちゃったみたいだから。残念だけど」
 桔梗がそう言うと、譲次は柄にもなく落ち込んだような表情をした。
「せっかく、最近のアニキは楽しそうだったのに……俺のことを闇雲に痛めつけることもなかったし」
 そりゃ仕方ない。場数が違う。
「菖蒲ちゃんだって楽しそうだったよ。毎日二人分のお弁当作っていってさ」
 はああ、と天使と悪魔は揃ってため息をついた。

「そんなのまだ分からないよ? 二人とも!」
 落ち込む二人に、達也は努めて明るい声を出した。
「いま桜井君とあっちゃんは窮地に追い込まれてるんだよ。お互いまだ気持ちは残ってるよ。助けてあげようよ、それが本当の兄弟ってもんでしょ?」
 本当の、兄弟?
 桔梗と譲次は顔を見合わせた。

「ホントに?」
「まだ大丈夫?」
 天使と悪魔に、達也は笑顔で応えてやる。
「僕はウソなんかつかないよ」

「本当の兄弟に?」
「なれるの?」
 そんなこと、達也にだって分からない。
「そうなればいいね……」


 桔梗のワンちゃんがケーキの匂いをかぎつけ、靴箱の側板に前足をかけ、くうんと鼻を鳴らした。
 喜多川家の一員のくせに、家族にのしかかる問題などワンちゃんにはどこ吹く風――。





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